脳は、状態をリセットすることなく、時空間信号の入出力変換を適切に行う機能的モジュール群によって構成されていると考えられる。これまでの研究では、このようなモジュールを理解および解析するための力学的枠組みについて考察してきた^<[1]>。これによると、複数の時空間入力パターンが途切れることなく連続して入力されるフィードバック結合を持つニューラルネットワークの動作は、入力パターンに対応した励起アトラクタを次々に遷移して行く過程と捉えることができる。励起アトラクタとは、同一の入力パターンを仮想的に無限回入力した後行き着く不変集合である。有限時間の入力パターンに対しては、行き着く前に遷移することになり、励起アトラクタの周りに広がりを生ずる。今回この"広がり"について詳細に解析した結果、励起アトラクタ間を遷移する軌道は状態空間に"フラクタル的な広がり"を形成することが明らかとなった。 フラクタル遷移は、散逸力学系に普遍的な現象であると考えられる。状態のリセットをすることなく時間発展するダイナミカルシスムは外部から次々と入力される複数の時空間入力パターンに対して、それらの時間系列を、フラクタル的な階層構造として、状態空間の部分空間である出力に反映する。脳の機能的モジュール間でフラクタル遷移を積極的に利用している可能性がある。時間軸上での情報処理の観点から、脳の機能を考える上で極めて興味深いものである。
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