研究概要 |
時系列の脳内表現原理を明らかにすることを目的として、脳の電気的・磁気的誘発応答の解析と構成的神経回路モデルによるアプローチで次の成果を得た。 1.聴覚系における時系列表現原理を推定するため、音長によるオドボールパラダイムを使って頭部表現での電気的(MMN)および磁気的(MMF)ミスマッチ応答を解析した。時間長の差が小さくなるとMMNの振幅が大きく、潜時が短くなり、両者はある値の収束する傾向があった。64チャンネルSQUIDを用いたMMFの単一等価電流双極子推定から、MMFの振幅・潜時の時間依存性がMMN計測の結果と同様であり、信号源位置は聴覚野内でN100m, P200m, MMFの順に前頭側、頭頂側へ分布することが分かり、音長ミスマッチ応答で短期記憶や弁別機能を定量化できることが示された。 2.入力がLeaky Integrator (LI)を介して自己組織マップ(SOM)に入力される時系列認識モデルを基本要素として用い、時系列認識における階層的表現の意味を検討した。1種類のLIを用いた1段階構造、2種類のLIを並列的に用いた1段構造、2種類のLIをSOMを介して階層的に用いた2段構造のモデルの能力を、SOMニューロン数一定の条件下で調べた。その結果このモデル群における階層的処理の有効性が示された。脳でこの機能分配が自己組織的に行われる原理について今後の検討が必要である。 3.人間の視聴覚処理で生じる錯覚現象:McGurk効果に注目し、認識についての新しい解釈を含む視聴覚総合モデルを構成・評価した。モデルは感覚層、SOM層、総合層、表出層からなる。表出層には感覚層入力を再現する遠心性結合を相関学習で形成した。モデルを模擬的な視聴情報(子音部と母音部の口唇の形)と視聴情報(フォルマントの時間変化)を用いて評価し、あばあさん細胞を仮定せずにカテゴリカルな認識の機能が得られること、非対称性を含めてMcGurk効果が再現されることが認識した。
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