研究概要 |
記憶や学習の素過程となる可塑的神経回路の形成には、シナプス結合における可塑性及び神経細胞膜興奮性の可塑的変化の両方が関与すると考えられるが、現時点では、長期増強や長期抑圧のようなシナプス結合における可塑性の研究に大きな進展が見られるものの、神経細胞膜興奮性の可塑的変化についての研究は非常に限られたものである。私たちは、ホールセル・パッチクランプ法を用いて、ラット前頭皮質錐体細胞における脱分極性スパイク後電位の解析を行い、その可塑的変化の可能性についての研究を行なった。その結果、以下のことが明らかとなった。 (1)DAPはCa^<2+>依存性のカチオン・チャンネル(P_k>P_<Na>>P_<NMDG>=P_<TEA>)が脱活性化する過程で発生するslow-tall電流により担われている。 (2)通常のリンガー液([K^+]=3mM,[Na^+]=150mM)中では、カチオン・チャンネルの反転電位は-40mV付近で、それより脱分極側ではスパイクの再分極を促進する外向き電流として働き、過分極側ではDAPを生じる内向き電流として働く。 (3)細胞外K^+濃度のわずかな上昇によりDAPが増強されburst afterdischarge(バースト様後発射)が誘発される。 (4)DAP及びその本態であるカチオン電流は抗てんかん薬のフェニトインにより著明に抑圧される。 (5)グルタミン酸及びムスカリン酸作動性代謝調節型受容体の活性化によりDAPが増強される。 一方、タキキニン受容体の一種であるNK3受容体はneocortexの第V層錐体細胞の樹状突起に豊富に存在することが最近報告されており(Ding et al.,1996)、さらに、私たちの最近の実験結果では、NK3受容体のアゴニストであるニューロキニンB(NKB)やSenktideは、neocortexの第V層錐体細胞で誘発されるDAPやカチオン電流を著明に増強し、その結果、burst afterdischargeを惹起する作用を有する。また、その作用をwash outすることは困難であった。従って、NK3受容体の活性化により、DAPの長期的な増強が調節されている可能性があり、後発射の生成と記憶・学習との関連が注目される。
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