研究概要 |
能動的視覚パターン認識に関連した脳の種々のメカニズムに関して、神経回路モデルの構成した.そのなかでも特に,形と動きの結びつけ機構の神経回路モデルの発展と,地図の連想機構の神経回路モデルの構築に重点を置いて研究を進めた. 哺乳動物の視覚系では、形の情報を処理する経路と動きの情報を処理する経路とが別々に存在し,並列的に働いている.そこで,視野内の複数の物体を認識する場合には,別々の経路で処理された形と動きの情報を何らかの方法によって結びつけなければならない.筆者らは以前,この結びつけが選択的注意機構で行われているとの仮説を立てて神経回路モデルを提唱したが,本年度は,生物の脳により忠実なモデルにするために回路構造を改良した. 脳損傷患者の半視野無視の症例などをみると,地図のような空間パターンは,脳の中でもそのトポロジーを保ったまま,やはり空間パターンとして表現されていると考えられる.そこで,地図のような空間パターンを,断片的な形で取り込み,その記憶をもとに広範囲の空間のイメージを次々と連続して想起する神経回路モデルを構築した.このモデルの能力を試すために,鉄道線路の記入されたヨーロッパ全域の地図を,重なり合った多数の断片的な地図に分割し,これをモデルに記憶させてみた.その後,スコットランドからイタリアまで汽車で旅行する状況を想定し,スコットランドの地図の一部をイメージ層(頭の中に思い浮かべているイメージが現われる細胞層)に入力した.すると,この初期パターンが引き金になって,パリを経由しイタリア南部に至る経路の地図がとぎれることなく想起されてきた.
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