研究概要 |
本研究では,これまでの他の研究施設およびわれわれの研究実績を基に,PBCをヒトの臓器特異的自己免疫疾患のモデルとして取り上げ,PBCに特異的なTCRリガンドの同定,TCRリガンドの発現調節やTCRリガンドによる自己反応性Tリンパ球の活性化機構等その免疫異常の本態を分子レベルで明らかにする.また,MHC結合修飾ペプチドによるTリンパ球の免疫応答の制御,さらには,PBCモデル動物の開発を行い,それを利用して疾患特異的治療法の確立を試みることを目的とした. 本研究の成果として,PBC患者の末梢血中にはHLA-DR53拘束性にヒトPDC-E2ペプチド163-176に反応するT細胞が存在し,EXDKがその認識に重要である,このようなT細胞は健常者に比しPBC患者に有意に多く存在する,またこれらのT細胞はCD4陽性でTh1様タイプであり,EXDK配列を有する他の抗原ペプチドの中にPDC-E2ペプチド特異的T細胞が反応する外来抗原ペプチドが6種類存在する,さらにmolecular mimicryペプチドに特異的なT細胞が自己反応性PDC-E2ペプチド特異的T細胞の活性化を抑制し,自己免疫反応を調節しているという結果を得た.これらの結果より,分子相同性がPBCの病態形成に何らかの関与をもち,エピトープ特異的な免疫制御療法の格好のターゲットになる可能性が考えられた.また,T細胞クローンのTCRを解析した結果,超可変領域CDR3はGXG,GXS,RGXGという限られたモチーフが使用されていることが明らかとなった(Ichiki et al).このことより,CDR3をターゲットとした免疫療法の可能性が得られた. 本研究を通じて,PBCの発症に関与する病因エピトープと自己抗原認識機構の一端が分子レベルで明らかとなり,TCRリガンド特異的免疫制御法の開発の可能性が期待された.また,本研究で得られた知見は,他のヒト自己免疫疾患の病態解析や治療法の開発に有用な情報を提供できるものと思われた.
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