研究概要 |
同一の個体に対して,複数時間断面に渡ってデータを収集するパネル調査によるパネルデータには,非常に豊富な情報が含まれている.この情報の豊富さ故に,パネル調査,分析の必要性が,より大きなものとなっているものと考えられる.特に,断面データを用いた個人間の「違い」に基づいて構築した行動モデルが,各個人の行動の「変化」を表現しているという保証が無いことを考えると,変化情報を含んだパネルデータに基づいた行動モデルこそが,的確に政策評価を行いえるものであるとも言えるであろう. ところが,パネル調査,パネル分析には,母集団の代表性の問題,あるいは,適切な調査設計技法と分析技法の開発など,様々な課題が残されているのも事実である.したがって,現実の交通計画の現場にパネル調査,パネル分析を反映させて行くには,それらの課題を一つ一つ克服していくことが必要である.本研究は,これらの認識に基づいて,パネル調査,分析の有効性を認識しつつ,現実の交通計画に反映させることを最終的な目標として,種々な観点から検討を加えたものである. 本研究グループでは,研究期間内に土木計画学研究発表会においてスペシャルセッションを二度,開催した(1996年の第19回土木計画学研究発表会,1997年の第20回土木計画学研究発表会).これらのスペシャルセッションでは,本科研研究グループが中心となって,パネル調査,分析だけでなく,交通調査,交通計画全般に及ぶ広い範囲にわたっての議論を行った.ここでは,本科研の各々の分担者からの話題提供だけでなく,行政やコンサルタントなどの交通計画の現場で交通調査に携わっておられる方々にも出席して頂き,交通計画の現場でどのような調査と分析が必要とされているのか,そして,パネル調査を現場に反映させることは可能であるのか,といった点についても議論した. また,各研究グループでは,パネルデータを用いた連続時間上の動的行動モデルや非観測異質性を考慮した行動モデル,アトリションバイアスを考慮した行動モデルなどの開発や,時系列変化についての動的分析,何らかの政策や震災による影響を分析した事前事後分析等がおこなわれた.
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