研究概要 |
骨組織及び軟骨細胞組織は力学的な体の構築の支えとなると共に、また重力或いは運動による物理的な刺激を受けることが組織を維持するシグナルとなっていることが考えられている.本研究においてはこのような骨芽細胞や軟骨細胞の力学的な刺激を含む細胞のシグナル伝達のメカニズムを解明する目的で,まず軟骨細胞の細胞株の樹立を行った.軟骨細胞はSV40-largeT抗原を発現するトランスジェニックマウスよりその関節軟骨細胞を用いて樹立した.このSV40-largeT抗原は温度に感受性で33℃では活性があり,37℃で不活性化する.従って軟骨細胞を樹立するに当たっては,33℃の低温においてなおかつ0.5%の低血清下で増殖するものを指標としてクローニングを行った.この結果得られたクローン細胞TC6細胞は培養下においては,その細胞凝集塊がアルシアンブルー並びにトルイジンブルーで染まる基質を合成するなどの軟骨細胞としての形態学的な特性を示し,また生化学的には軟骨細胞に特異的な形質であるI型コラーゲン,アグリカン,リンク蛋白などの遺伝子を発現することが確認された.細胞外からの物理学的な刺激の伝達機構としては細胞と基質との接着機構が挙げられる.軟骨細胞は従来その細胞接着レベルが高められた条件においては脱分化し,一方細胞接着レベルの低下した場合には軟骨分化形質の発現が維持されることが知られている.そこで,TC6細胞をバクテリア培養用の培養皿に捲き,その細胞接着を極限にまで減少させた条件で培養すると,通常の接着依存型の線維芽細胞がこの条件では生存不可能であるのに対して,TC6細胞は十分に生存が可能であり,なおかつ細胞同士の接着を有し,細胞外からの接着シグナルを含む物理学的な環境条件に反応し得ることが明らかとなった.このような細胞を今後用いることにより,軟骨細胞から骨芽細胞への分化を含む細胞内シグナルと細胞外環境からの物理的なシグナルの検討をすることが可能となり,本細胞に対し,様々のホルモン,サイトカインを含むシグナルと物理的刺激との相互作用を検討する上で,有用な実験系が得られた.
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