研究概要 |
I. 遺伝性異常fibrinogen(Fbg)の解析:平成8〜10年度の3年間に国内外から入手した10余家系について新しい知見(変異型を含む高次構造異常とその機能障害や臨床症状との関係など)が7家系で得られた.これらは各年度毎の報告書にその概要を記載してあるが,ここではこれらを総括して要約する.軽度の出血を示したFbg Caracas IIのFbn電顕像では,疎に結合したfibrin(Fbn)線維が頻回に切断された様相を呈し,形成されたゲルも多くの洞状構造を示していた.一方,出血の他,血栓塞栓症を呈したFbg MarburgのFbnゲルは,極く細かく,分岐に富む線維が緊密な網目構造を作り,水溶液の透過性も低い.このため一旦血栓が形成されると血流阻害に結びつき,血栓症の成因となることが考えられた.またFbn塊が線溶酵素プラスミンに完全に抵抗したことも上の結論を支持している.Fbg Niigat(Bβ Asn-160→SerとBβ Asn-158への余剰糖鎖の付加,Blood投稿中)の電顕像ではFbn線維は著しく湾曲し,余剰糖鎖がプロトフィブリルの側々結合を阻害していることが判明した.実際,酵素処理して糖鎖を除去した所,Fbgゲルの形成障害は著明に改善した.これらの他,血栓症を伴うFbg Pretoria(南アフリカ共和国)で新変異型γCyS-139→Tyr(未発表)を,また国内からの異常分子Kurashiki I,Kamogawqa,Tokyo IVおよびOsaka VIで,いずれも新しい変異型と機能障害,臨床症状との関係を明らかにした(Kurashiki:γGly-268→Glu,Blood 87:4686-4694,1996;Kamogawa:γArg-275→Ser,Thromb Haemostas,印刷中;Tokyo IV,γAla-327→Thr,未発表;およびOsaka VI,Bβ鎖C末12残基の延長,未発表).未発表分子はいずれも1999年8月開催予定の国際血栓止血学会で報告の予定であり,分析終了と共に論文化することにしている. II. 接着分子としてのFbnの分子機作:FbgはFbnへと転換されて初め接着活性を示し,線維芽細胞に於ては従来報告されていたβ_3-integrinのみでなくβ_1-integrinにも作用することを見出した(J Biol Chem272:8824-8829,1997).またFbn上でのglioma細胞株の接着・伸展は最初にFbn,次いで細胞自らが分泌したfibronectinと,共にβ_1-integrinを介して2段階に進展するという興味ある所見が得られ,組織修復や腫瘍細胞の転移のメカニズムの一端が明らかになった(Thromb Resに受理され印刷中).またキニノゲンには接着活性の他,これを阻害するという二面性の作用機作が存在し,炎症や血栓の形成と調節に与る新しい機序が示された(J Biochem124:473-484,1998)。
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