研究概要 |
本研究の究極的な目標は,両眼への時空間的な入力から,3次元的な運動が知覚されるトータルなメカニズムを解明することにある.直接には,運動視,立体視,メカニズムの相互関係を,左右両眼に,継時的に提示された刺激を用いて検討する.本年度はランダムドトパターンを用い,パターンのドット密度と,二つのパターンを左右眼に提示する時間間隔の2つのパラメータと,運動視,立体視の生起との関係を詳細に検討し,運動視,立体視の間の相補的な関係を明らかにした.基本的にはドットの密度が低い場合,かつ刺激間時間間隔が長い場合には運動視が生じ,密度が高く,時間間隔が短い場合には立体視が生じる.つまり,運動視と,立体視の両メカニズムの間には競合的な関係が生じている.これまで,両眼分離提示ではいわゆるショートレンジ・モーションが生じないということが広く知れ渡ってはいたが,そのときには両眼立体視が成立しているということが判明した.立体視が生じる限界はこれまで100ms程度と言われてきたが,今回の実験ではドット密度が高い場合には200ms程度までのびることはあるもののおおむね,こうした時間差をともなう刺激に対する両眼立体視は,これまで両眼への入力に対する過渡的な応答の間に時間的な重なり合いがあれば立体視が成立するものとして理解されてきた.今回の研究では,ランダムドット・ステレオグラムを用い,両眼入力それぞれの提示時間,輝度コントラスト,および両眼入力間の時間関係を様々に変化させた実験を行い,そうした過渡反応が存在することを実証すると共に,両眼立体視には過渡系ばかりでなく,定常的な反応をする系の関与も存在することを示した.
|