研究概要 |
本研究の目的は,対人不安傾向者の症状のパターンと,認知行動療法技法の最適な組み合わせを探ることであった. まず,対人発話場面における認知的歪みと非合理性変数の評価法のツールとして作成された「発話不安に関連する認知の歪みと非合理的信念尺度」(DITS-SA:Distorted or Irrational Thinking Scale for Speech Anxiety)を開発,これを用いて,下記の実験を行った. 第1実験では,対人不安傾向を持つ男子学生18名に実験への協力を依頼した.異性面接者による面接を受けるという対人的ストレス課題において,生理的変化,主観的不安感,外顕行動面の混乱が測定された.18名は,DITS-SAの得点に基づいて,上記被験者は,認知の歪みと非合理性の優位群(H-DITS群)と非優位群(L-DITS群)に分けられ,3週間のリラクセーション訓練期間のあと,再度ポストテストとし,プリテストと同じ構成の対人ストレス課題において,各指標が測定された.その結果,一部の生理指標において,H-DITS群はL-DITD群よりもリラクセーションと脱感作訓練の練習効果が小さいことが確認された. 第2実験では,対人不安傾向を持つ大学生に協力を依頼し,DITS-SA得点に基づいて,上記被験者を歪曲・非合理性高群と低群に分けた.対人的ストレス課題におけ,生理的変化,主観的不安感,行動面の混乱の指標が測定された.これをプリテストとし,3週間の自律訓練法訓練期間のあと,再度ポストテストとし,プリテストと同じ構成の対人ストレス課題において,各種データが測定された.その結果,一部の生理指標において,歪曲・非合理性低群の自律訓練の練習効果がより大きいことが確認された. 以上より,認知的な歪みや合理的でない認知が高い対人不安傾向者においては,リラクセーションのみでは効果が十分ではなく,認知修正の介入が平行して行われる必要があると考察された.
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