研究概要 |
CRTディスプレイ上を2つの動体が同方向に水平に動くとき,「どちらが長いか」という運動時間,運動距離の比較判断は,子どもにとって意外に難しい。このことは,動きのある教材をパソコンで提示する際の大きな問題であるにもかかわらず,ほとんど知られていないし,研究もされていない。この難しさの原因はなになのだろうか。そしてその原因は,発達的にどのように変わるのだろうか。これまで3年間の研究で明らかになったことは次のようなことである。1.幼稚園児や小学校低学年児においては,出発・到着地点の異なるときの,出発・到着時点の同異の認知がかなり難しい。「時間=終了時刻-始まりの時刻」の知識(知識α)を用いて論理的に時間の比較判断をすることを教えても,ほとんど理解できない。距離の比較判断においても同様である。2.小学校高学年生にとっては,「時間=終了時刻-始まりの時刻」の知識が使えることに気づかないことが,主な困難点である。そして彼らにおいては,「時間=終了時刻-始まりの時刻」の知識よりも「時間=距離/速さ」の知識(知識β)の方が活性化しやすいのではないかと思われる。距離の比較判断についてもほぼ同様である。3.中学生でも,知識αと知識βを課題に応じて正しく使い分けられる者はほとんどおらず,「時間=距離」の知識を一貫して用いる者が多い。4.大学生では知識αを一貫して用いる者が多く,大学生でも2つの知識を使い分ける者は2割である。このように,物理的世界の認識の基本である時間と空間(距離)の認知に関して,その発達は緩やかに進み,中学生から大学生への発達が単調ではない上に,その間に,まだ大きな発達的変化のあることが示された。
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