研究概要 |
本研究では,信用リスクを「取引相手の倒産によって,貸出し,社債の元本,あるいは,相対取引における派生証券の利益等が返済されない可能性に起因する,現時点におけるキャッシュフロー上のインパクト」として捉え.複数企業間の倒産構造に相関がある場合の信用リスクを数理ファイナンスの視点から分析した.既往の研究では対象企業が一社のみで,連鎖倒産など複数企業が関係する状況や,担保付債務や保証付債務といった伝統的な金融商品の評価を正しく捉えることができない.一方,投資技術の高度化,多様化によって,複数かつ多種類の資産に分散投資されたポートフォリオを持つ企業にとっては,単にマーケットリスクを管理するだけではもはや不充分で,ポートフォリオにおける信用リスクの評価・管理,さらにはマーケットリスクと信用リスクの統合管理が必要となってきている. 本研究では,(1)倒産に関する複数企業間の相関構造を取り込む形での信用リスク評価モデルの構築,(2)信用リスクの評価尺度とマーケットリスクの評価尺度の統合化の試みを行い,以下の四つの成果を得た. (1)StructuralモデルではMertonモデルをベースに,ReducedモデルにおいてはJarrow and Turnbullモデルをベースに,企業倒産に相関構造を持たせた形で拡張し,後者に関しては無裁定条件を導出. (2)Reducedモデルを金利とデフォルト・プロセスの間に相関を持たせた形でJarrow and TurnbullとJarrow,Lando and Tunrbullの両モデルを拡張し,後者に関しては無裁定条件を導出. (3)信用リスク評価のモデルの一つとして,Duffie and Singletonモデルのクラスの属し,短期的な市場リスクとの統合管理に適当と思われるモデルを提案. (4)市場リスクと信用リスクの統合管理における技術的な問題点と統合の方向性について検討し,市場リスクの評価期間との兼ね合いから妥当と思われる信用リスクの評価モデルを提案.
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