研究概要 |
地震時の断層の挙動は,我々が通常想像するよりも遥かにダイナミックである.大地震の発生時には,断層は静止した状態から高速に加速されて,数m規模に達する大きな変位をする.本研究の目的は,断層が高速で大変位をする時の性質(高速摩擦構成則)が地震の発生過程に与える影響を調べることである.研究成果は以下の通りである. (1)回転間隙水圧式高速摩擦試験機を設計・製作した(本研究の最大の成果).この試験機ではステンレス製圧力容器に50MPa以下の水圧(=間隙圧),500℃以下の温度を加え,円筒形試料を用いて高温熱水条件下で高速摩擦試験を行うことが可能である.平成9年度は,高温用の加熱炉を製作した.試運転にも成功し,この試験機の製作によって,断層の性質を高速・大変位・含水条件下で世界に先がけて調べることが可能になった.またこの試験機は,高温腐食条件下における物質の摩擦・摩耗の性質を調べる道を開き,多くの工業的な応用が期待される. (2)1990年に設計・製作した回転式高速摩擦試験機を用いて,ハンレイ岩の高速摩擦の性質の全貌を明らかにした.その結果,すべり速度の増加とともに断層の摩擦抵抗は一旦増加し,さらに速度が増加すると熱破壊または摩擦溶融の影響によって摩擦抵抗が急に減少することが示された. (3)高速摩擦の性質に基づいて地震の2段階発生論を提唱した.この説は,既存の断層の構成則に基づいて予想される地震の震源核が不安定になって断層が加速すると,高速領域にはいってvelocity strengtheningのバリアによって断層の加速が抑えられ,断層がこのバリアを乗り越えた時に地震の発生に至るというものである.地震の第2種空白域がこのモデルによって精密できる可能性がある.
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