研究概要 |
雷雨がどこでいつ発生するか正確に予報することは,数値予報をもってしても難しい.気象レーダは現状をとらえる有効な手段であるが,雨粒からのエコーをとらえているため,降水が発生してからでないと観測できない.雲や降水になる前の水蒸気の動態をとらえることが,雷雨をはじめとするメソ擾乱のメカニズム解明と予報のための重要な鍵の一つになっている. 本報告では山岳や海陸のコントラストによる熱的局地循環による水蒸気輸送と降水頻度の関係を,野外観測,既存データの解析,数値モデルにより解明しようとしたものである.この研究がスタートした時期にGPSによる可降水量の観測が気象学的解析に耐えうる十分な精度を持っていることが明らかになり,本研究でもこれらのデータを積極的に活用した.この結果,関東地域における夏の一般場が弱く,総観規模の擾乱が弱いときの局所的な降水には以下の特徴があることが示された. 1. 内陸では午後から夜に降水頻度が最大となるような日変化を持っている. 2. 降水頻度の分布は地形とよい対応が見られる. 3. 特に起伏との対応が良く,海陸のコントラストの影響を上回る. 4. 山岳地では午後になると降水頻度が高まり,その後次第に平野部に降水頻度の大きな領域が広がる. これらの結果から,夏の関東周辺の山岳地に発生する対流性降水と局地循環による水蒸気輸送は極めて深い関係があることが明確となり,局地循環の活動とそれによる水蒸気輸送を的確に把握することが夏の雷雨を予報する上で重要であることが明らかになった. 今後,陸上ではGPS,海上ではSSM/1による可降水量の常時監視ができるようになると,局地循環による水蒸気輸送ばかりでなく,降水に関する短時間予報の精度が大幅に向上する可能性がある.
|