研究概要 |
本研究では,近未来の温暖化現象に伴う日本海陸棚環境の変化とそれが生物分布(主に貝類)に及ぼす影響を理解するため,過去の温暖化現象を詳細に分析した.具体的には対馬海流流入開始期の温暖化現象に注目し,それを記録した更新統大桑層と現世日本海陸棚堆積物を研究対象とした. 大桑層の研究結果から,対馬海流流入に伴う温暖化による浅海環境と貝類の変遷過程は次のように復元される.まず温暖化の影響は海洋表層から始まり,その後,陸棚海底に達する.その結果,個体発生初期の死亡率が増加し,寒水系貝類が地域的に死滅した.この寒水系貝類が死滅する前から,暖水系貝類の幼生は浮遊運搬されていたが,それらは低い水温(特に冬期の底水温)のため個体発生初期に死亡した.この状態は寒水系貝類の地域的死滅後も続き,温暖化がさらに進んだ後,暖水系貝類がようやく定着した.注目すべきは,温暖化に伴って日本海陸棚で寒暖両水系貝類に適さない環境が一時的に生じたことである.このような状況は,寒水系貝類の分布南限の日本海北方海域で,近未来の温暖化で最高水温と最低水温の差が増大した場合,発生する可能性がある. この寒暖両水系貝類に適さない環境が,最新の対馬海流流入開始期(1万年前)の日本海北方陸棚で発生したかを調べるため,通産省工業技術院地質調査所が採取したコア試料を検討した.北海道天売島沖の陸棚から採取したコア試料が研究に最適と思われたが,^<14>C年代測定の結果,この試料では5千年前までしか遡れないことが分かった.よって,本研究を精密化するには,日本海北方陸棚から1万年前まで遡れるコア試料を得る必要がある.さらに,研究例がほとんどない同海域の現世貝類の地理的分布も調べる必要がある.これらを解決することで,本研究課題の温暖化に伴う浅海環境と海洋生物分布の変遷過程を理解でき,近未来に起こる温暖化現象への方策を画することも可能となる.
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