研究概要 |
周期表で第3周期以降の典型元素を含む多重結合の化合物は、従来、不安定であるとされてきた。しかし、近年、2,4,6-トリ-t-ブチルフェニル基(Ar基と略称)などの大きな立体保護効果をもつ置換基(立体保護基)を分子内に組み込むことにより、含ヘテロ多重結合化合物を速度論的に安定化できることが明らかになってきた。本研究は、低配位状態にあるリン原子を含む化学種の発生と単離・同定を試み、それらの電気化学的性質をサイクリックボルタンメトリー法(CV法)による酸化還元電位などの測定により研究した。 1.新規立体保護基として4-t-ブチル-2,6-ジメシチルフェニル基を開発し、それを置換基とする極めて安定なジホスフェンを合成した。CVにより還元電位を測定したところ、殆どArP=PArと同じ値であった(-2.16V)。 2.ジホスファブチン、ジホスファブタトリエン、ジホスファブタジエンの合成を行い、生成物のCV法による酸化還元電位の測定を行ったところ、いずれも、非可逆な酸化還元波を与えることが分かった。置換基としてのハロゲンの違いが観測され、また、CVと一電子移動による還元反応とが密接な関連があることが分かった。 3.ホスファアルキンの合成とそのオリゴマーへの変換を試みたが、前駆体の合成が難航し、成功しなかった。 4.2,4-ジ-t-ブチル-6-ジメチルアミノフェニル基などの-新規立体保護基の開発により、チオキソホスフィンやジチオキソホスフィンの合成を試み、そのX線結晶構造解析から分子内配位の可能性について検討した。 テトラホスファ[4]ラジアレン合成の可能性について検討したが、合成に至らなかった。 種々のホスフィン、アルシンおよびその誘導体を合成し、CV法などによる電気化学的性質の検討を行ったところ、2段階の酸化還元系を与えるアミノホスフィンやビスホスホニウム塩を見出した。
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