研究概要 |
芳香族炭化水素、例えば、ベンゼン、ナフタレンなどは有機化学において中心的役割を果たす重要な化合物であるが、その骨格炭素をケイ素に代えた含ケイ素芳香族化合物(シラアロマティックス)は極めて不安定であり、単離された例がなかった。本研究ではケイ素上に我々が開発した極めてかさ高い立体保護基である2,4,6-トリス[ビス(トリメチルシリル)メチル]フェニル基(Tbt基と略記)をもつ2-シラナフタレンの合成を行った。テトラヒドロ-2-シラナフタレンのジクロロ体から出発し、還元、TbtLiの反応、臭素化、還元、再度臭素化を経て前駆体を合成し、それをt-ブチルリチウムにより脱臭化水素反応を行い、目的の2-シラナフタレン(1)を無色結晶として得た。1は水、酸素とは極めて速やかに反応するが、熱的には非常に安定であり、各種スペクトルにより同定された。特に注目すべきは、^<29>SiのNMRスペクトルであり、環内のケイ素が87.4ppmに観測されsp^2のケイ素を持つことが示された。またシラナフタレン骨格のCl-Si、Si-C3結合の^1J値がそれぞれ92、76Hzであることから明らかにケイ素を含む6員環部分にπ電子の非局在化が起こっていることが示された。1の構造は最終的にはX線結晶構造解析により決定された。1のX線結晶構造解析は、低温で測定したにもかかわらず熱振動のために十分満足すべき結果ではなかったので、Tbt基の代わりにBbt基(2,4-[ビス(トリメチルシリル)メチル]-4-トリス(トリメチルシリル)メチルフェニル基)に代えた2-シラナフタレン2も合成した。2も良い結晶を与えなかったが、新たな安定なシラ芳香族化合物の例となった。
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