研究概要 |
研究の初期過程は,スタッキング能力を有する目的配位子の合成から始められた。目的配位子(1)合成のために,(1)[架橋部分の合成→配位サイトの導入]とつながる経路と,(2)〔2核形成配位子の合成→架橋形成〕の2種類の反応経路を考慮したが,配位子生成が確認されたのは経路(1)の合成法であった。しかしながら様々な改善を試みても合成収率は10%に未だ届かず,今後も引き続き収率向上を目的とした合成・精製法の確立に取り組む必要がある。これと並行して,連結部位にn-ブチレン(2),p-キシレン(3)を有する配位子の合成を試みた。配位子2,3は,1に比べ立体制約を受け難いことから比較的良い収率で合成することができた。 次に基本となる2核形成配位子の錯生成の評価を行った。二核化配位子と酢酸銅(II)や塩化銅(II)との反応では淡緑色の微結晶が得られ,一方臭化銅(II)との反応では青紫色の微結晶が得られた。緑色結晶はスタック型高分子錯体を形成しているものと推定され,一方紫色の錯体は臭素イオンの架橋能力によりμ_4-オキソ架橋の4核錯体を生成していると推定され,臭素イオン等の無い条件では強いスタック効果を誘発することが示された。次いで,目的配位子を用いた多核銅(II)錯体の合成を行った。配位子と酢酸銅(II)との反応では,いずれの配位子からも緑色の難溶性沈殿が生成した。いずれの錯体も配位子と銅イオンが1:2の組成比であり,また室温での磁気モーメントは1.4〜1.6B.M.を示し,銅イオン間に反強磁性的相互作用が働いていることから,これらの錯体は高分子状多核構造を有していることが予想された。近似として4スタック分の分子データを作成しab initio計算による最適構造の推測を試みたところ,配位子1は強いスタック効果を誘発させるが,2や3では立体的制約から直鎖構造が最適構造であることが示唆された。
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