研究概要 |
本研究では二次元に展開された水分子の挙動をそのダイナミックスを調べることによって研究した.1つは,イオン性結晶表面に吸着した水分子の相変化に関するものであり,2つ目は,五酸化バナジウム水和物層間における水分子の拡散と層構造との関係を調べるものである. (1)水和酸化クロム表面上に単分子層吸着した水分子は,2次元均一相を形成し,表面格子気体-凝縮相の平衡が存在する.本研究の主たる目的は,この凝縮相の種類を決定することである.冷中性子散乱によると,臨界温度以下で水分子に回転運動は見られるものの,並進運動は見られない.誘電率測定では,臨界温度以下の吸着相に単に固定化されたものではない運動性の存在を示唆する誘電緩和が観察された.臨界温度以上では,並進運動が見られ,47.6℃で3.1×10^<-10>m^2s^<-1>の拡散係数が観察された.この値は,層状物質層間の単分子層水分子の拡散係数に近い.水との比較のため水和酸化クロム表面へのアルコールの吸着を行った.水酸基数が少ないためか,単分子層で均一二次元層としての挙動は観察されなかったが,2分子層で特異な凝集が確認された.Cerius 2を用いた酸化クロム表面上への水およびメタノール吸着のモンテカルロシミュレーションは,FT-IR等の実験結果に基づいて推定された吸着構造モデルとは異なる結果を与えた. (2)五酸化バナジウム水和物層間の水分子のダイナミックスをNMR測定と中性子散乱測定によって調べた.水分子は,そのC_<2v>回転軸がc-軸の回りに18°傾いて回転しており,ab面では水分子の双極子の方向に異方性はなかった.2分子層吸着した水分子の並進の自己拡散係数として7.2m^2s^<-1>を得た.これは純水の値の約三分の一で,並進運動が束縛されていることが分かった.水との比較のためアンモニアの吸着を行った.アンモニアは単分子層を分子状およびアンモニウムイオンの形で吸着し,不均一な吸着をすることが分かった.
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