研究概要 |
キラルな励起分子と基底状態にある分子との相互作用によって生成する励起錯体の化学的特性を明らかにし、新しい高エナンチオ選択的または高ジアステレオ選択的光化学反応を開発することを目的として、キラルな励起分子または励起錯体の蛍光消光、およびキラルな反応場における光反応を行い、以下の知見を得た。 1.軸不斉を有するS-(+)-およびR-(-)-2,'-ジメチル-1,1'-ビアントリルの蛍光消光におけるエナンチオ選択性について、種々のキラルな消光剤を用いて検討した結果、その消光速度は消光剤の構造、電子供与能、ならびにキラリティーにより大きく変化することが明らかになった。 2.キラルな(-)-2,2'-ジメチル-1,1'-ビアントリルと芳香族アミンとて形成される発光性励起錯体の蛍光消光をキラルな消光剤を用いて行い、キラルな励起錯体がキラルな消光剤とエナンチオ選択的に相互作用することを明らかにした。 3.分子内にメンチル基またはコレステリル基などのキラルな補助基をもつ1,4-ジシアノナフタレン誘導体および9,10-ジシアノアントラセン誘導体を合成し、それらを光増感剤とする芳香族アルケンへのアルコールの光極性付加反応について検討した。その結果、コレステリル基をもつ1,4-ジシアノナフタレンを光増感剤とする1,1-ジフェニルプロペンへのメタノールの逆Markovnikov付加反応が、最大27%のエナンチオマー過剰率(ee)を示すことが分かった。 4.ナフタレン環の1位または2,3位にキラルなアルコシカルボニル基をもつナフタレン誘導体とフランとの分子内および分子間光環化付加反応を行い、(4+4) 光環化付加反応体ならびにかご型化合物がジアステレオ選択的に生成することを見出した。また、これらの反応では励起状態における双極子モーメントが重要な役割を果たすことも明らかにした。
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