研究概要 |
アルカリ金属イオンは"かたい"酸であるので"かたい"塩基である酸素原子を含む配位子と強く結合すると考えられ、クラウンエーテルを用いるの研究が多くなされてきた。しかし、我々が合成した8個の臭素原子をもつ水溶性ポルフィリン(5,10,15,20-tetrakis(2,3,7,8,12,13,17,18-octabrom-4-sulufonattophenyl)porphyrin(H2obtpps4-)はリチウムと反応することが分かった。しかも、0.1MのNa^+やK^+は全く反応しなかった。その原因は、(1)8個の臭素原子の電気吸引性によってポルフィリンの塩基性が減少し、通常では解離しないピロールのプロトンがpH10で解離する(pK_a=10.06)、(2)8個の臭素原子の導入によって臭素原子間の反発によりポルフィリン環が歪み、リチウムイオンとポルフィリンの反応が速くなった、(3)リチウムのイオン半径(70pm)は亜鉛イオンの半径(72pm)とほぼ同じであり、ポルフィリン環の中に挿入するのに最適なイオン半径である、(4)ポルフィリン核はクラウンエーテルよりも構造的な制限が大きいのでナトリウムイオンは1M濃度でも反応しなかった。この結果を用いて、多量のナトリウムイオン中でppmレベルのリチウムイオンの選択的吸光光度定量法を確立した。さらに、Li^+ポルフィリン錯体はテトラブチルアンモニウムとイオン対を形成してクロロホルムに抽出されることを見いだしたので、Liポルフィリン錯体のイオン対抽出機構及び血清や海水中のLi^+の定量分析法に応用した。更に、水-アセトニトリルの混合溶液からLiポルフィリン錯体はテトラブチルアンモニウムがなくても抽出されることが明らかとなった。これらの成果は論文として発表した。
|