研究概要 |
藍色細菌(シアノバクテリア)の一連の生物時計突然変異体に野生型ゲノムDNA-ライブラリーを遺伝子移入し、遺伝的相補によって表現型が野生型に戻った相補体を分離し、プラスミドレスキュー法で相補体から大腸菌に目的遺伝子を回収した。このようにして、時計の中核機能を担う生物時計遺伝子クラスターkaiABCのクローニングに成功した(Ishiura et al.,1998.Science281:1519-1523)。kaiABCは3つの新規遺伝子、kaiA、kaiB、kaiC、より構成されており、解析した多様な生物時計突然変異はすべてこのkaiクラスター上に落ちるミスセンス変異であった。kaiBとkaiCの相同遺伝子が始原菌のゲノム中に存在するが、真核生物ではkaiの相同遺伝子はまだ見つかっていない(Ishiura et al.,1998.Science 281:1519-1523)。kaiABC上には、kaiAの上流域(PkaiA)とkaiBの上流域(PkaiBC)にそれぞれ1つづつ合わせて2つのプロモーター領域が存在し、kaiAはkaiA mRNAとして、kaiBとkaiCはkaiBC mRNAとして転写される。kaiABCそのものがサーカディアン発現し、kaiABC上の変異によってその発現が影響される。しかもKaiAタンパク質はkaiBCの発現を促進し、いっぽうKaiCタンパク質はその発現を抑制する。このように、生物時計の本質は時計遺伝子クラスターkaiABCのサーカディアン発現の自己制御に還元することができる。Kaiタンパク質は相互に結合する活性があり、細胞内ではKaiABCタンパク質複合体を形成しており、kaiABCのサーカディアン発現制御には、このKaiABCタンパク質複合体の動態(量、サブユニット構成、リン酸化などのタンパク質修飾、KaiCのATP結合活性など)が深く関与していることが分かってきた(Iwasaki et.al.,1999.EMBO.J.印刷中;Nishiwaki et.al.,1999.未発表)。 時計関連遺伝子pexは時計の周期を延ばす新規のサプレッサー遺伝子としてクローニングされたもので、生物時計の制御下にありサー力ディアン発現し、光で発現が抑制される(Kutsuna et al.,1998.J Bacteriol.180:2167-2174)。Pexタンパク質はPkaiBCプロモーターには全く作用しないが、PkaiAプロモーターを抑制する(Kutsuna et al.,1999.投稿準備中)。この抑制に関与するPkaiAプロモーター上の作用点(cis-negative element)を既に特定している。最近さらに、バクテリアの二成分系(Bacterial two-component system)のadaptive response regulator(kinase)の一つがKaiCと相互作用することか判明し、これが生物時計に関与することが明らかになった(Iwasaki et al.,1999.投稿準備中)。
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