研究概要 |
同一の群落内におけるサイズの異なる固体(種)がどのように資源を獲得,利用しているかについて調べ,その共存,あるいは競争機構を解明することを目的とした.共存系として多種が安定的に存続している東北大学川渡農場のススキ群集を調べた.下層を占めている種であるミツバツチグリやオカトラノオなどは上層を占めるススキに比べて吸収できる光量は非常に限られていた.しかし,葉面積が相対的に大きい形態をもつことにより,地上部重量あたりに吸収する光量は上下種で大きな差がなかった.このことは,光獲得の効率において上下層の種に差がないことを意味し,これが共存の条件であることを示唆した.競争系として,宮城県釜房湖畔の野生のオオオナモミ群落における上層固体と下層固体の光獲得について調べた.共存系と大きく異なり,光獲得効率は上層固体で大きく,共存系との違いが明らかになった.発達段階の異なる群集の比較により,固体の高さと光条件が固体が展開できる葉面積を大きく規定していることが明らかとなった.さらに,実験圃場において窒素栄養条件の異なる群落を作り,葉の光合成特性を比較した.個葉の窒素含有量は下層固体の葉ほど高い傾向を示したが,個葉における窒素の利用の仕方は個葉の光条件にのみ依存していた.サクラなど多くの植物で,結実せずに終えてしまう花がかなりあることが知られている.この一見無駄な花を着けるのは,環境条件が良く多くの花が結実可能な年に備えているからだと言われていたが,環境条件の変動が大きいほど花を少な目に着けるという戦略が進化する場合もあることを示した.動物など雌雄異体の生物において,雄の子と雌の子の進化的に安定な資源投資比は1対1となることが理論的・実証的に確かめられている.同様に,両性花植物においても,雄器官と雌器官への資源投資比は1対1となることが予測される.しかし現実には,資源投資比は雌器官へ大きく偏ることが普通である.このことを説明するためにいくつかの仮説が提唱されたが,どの仮説も,資源投資比の大きな偏りを説明することはできなかったが,果実の成長過程におけるシンク制約成長を考慮すれば,資源投資比は雌器官に大きく偏ることを理論的に示した.
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