研究概要 |
人為的に移入された地域での外来種鳥類の定着・帰化は19世紀以来世界各地で繰り返され,生物の分布に影響を与えている.日本国内でも移入種の帰化の例は増えているが,その実態についてはほとんど研究がない.本研究では,外来種のソウシチョウが九州各地の自然林で急速に個体数の増加させ,分布を拡大している原因および在来鳥類群集(とくにウグイス)への影響を明らかした. ソウシチョウの繁殖密度は森林性鳥類群集の中でも優占しており,ウグイスの2〜3倍に達していた.両種のみが林床のスズタケ群落内に営巣し,ウグイスの巣はスズタケ密度の高い地域に限られ,ソウシチョウはスズタケの密度によらず広い範囲に分布していた.ソウシチョウが高密度に営巣可能な理由の一つは営巣場所の選択幅の広さにあると考えられる.両種の分布の重なりは大きかったが,営巣場所に関する競争を示す証拠は得られなかった. 繁殖期間はソウシチョウが4月〜8月、ウグイスは4月〜7月で,同所するシジュウカラ類等他の分類群に比べて長かった。両種とも繁殖成功が非常に低かった.失敗の原因のほとんどは補食であり,カケス,ヘビ類による補食が確認された. ソウシチョウは森林の中下層部の樹木の枝葉部分で多く採餌していた.主要な餌となっている鱗翅目の幼虫,成虫,大型飛翔性昆虫などは季節的な消長が大きかったが,採餌空間の季節的な変化はみられなかった. ソウシチョウはシジュウカラ類との垂直的な採餌空間の重複が大きかったが,主にスズタケ群落上で採餌する事が多く,スズタケ群落から離れて採餌することの多いシジュウカラ類とは採餌場所を分けていた.ウグイスは主にスズタケ群落内で採餌しており,ソウシチョウとの重複は少なかった. ソウシチョウはスズタケ群落内で他種の占有しない空いたニッチを占有することで自然林内に定着し,個体数を増加させていると考えられる.国内の落葉広葉樹林帯は現在ニホンジカによる林床植物の食害が急速に進んでいる.ソウシチョウやウグイスの生息場所も急速な改変が進んでいる.今後,シカによる植生改変の鳥類群集への影響を評価する研究を推進する.
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