研究概要 |
高等植物の分化の柔軟性は細胞やオルガネラの分化転換能力に起因していると考えられる.植物の器官の可変性を細胞内のオルガネラの可変性としてとらえて,オルガネラの中でも特に形態的にも機能的にも大きく変動する液胞に着目して研究を進めた.高等植物の液胞は,貯蔵器官にみられるタンパク質蓄積型液胞と栄養器官にみられる分解型液胞の2種類に分類されている.本研究では,液胞の機能分子の活性化に関わる液胞プロセシング酵素(VPE;Vacuolar processing enzyme)の細胞分化転換時における発現制御機構の解明を目指して下記の解析を行った.液胞プロセシング酵素は様々な液胞タンパク質の成熟化に関与している酵素で,新規のシステインプロテイナーゼのファミリーを形成しているが,シロイヌナズナより単離した3種類のVPE(αVPE,βVPE,γVPE)遺伝子の解析から,このファミリーはさらに2つのサブファミリーに分けられ,βVPE遺伝子が種子と花粉に特異的に発現しているのに対し,αVPEとγVPEの遺伝子は栄養器官で発現することがわかった.このことは,βVPEがタンパク質蓄積型液胞で種子タンパク質の成熟化に関与し,αVPEとγVPEが分解型液胞で機能していることを示唆している.次いで,栄養器官型VPE_Sの生理学的な機能を明らかにすることを目標として,γVPEの酵素化学的な解析を行うとともに,詳細な発現様式の解析を行った.その結果,栄養器官型αVPEとγVPE遺伝子の発現が,若い健康な組織では観察されず,細胞死に至る組織などで強く発現するとともにサリチル酸処理や障害によっても発現が誘導されることがわかってきた.酵母細胞内で発現させたγVPEも貯蔵器官型VPEと同様にアスパラギン残基のカルボニル基側のペプチド結合を切断する活性を有していることが分かった.老化組織やストレスを受けた組織の液胞ではCysteine proteinasesが発現誘導されてくることが報告されているが,これらの加水分解酵素の活性化を伴う成熟化にγVPEが関与していることが強く示唆された.
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