研究概要 |
仙台市富沢遺跡及び東北大学構内遺跡(三神峰),宮城県鳴子町の鬼首,青森県五戸町および木造町(出来島海岸),秋田県比内町の池内遺跡において最終氷期の針葉樹の球果,材,葉の化石を採集した.これらのほとんどはトウヒ属であった. 一方,化石との比較を行うため,現生日本産トウヒ属7種2変種について,全DNAを抽出し,PCR法により目的領域を増幅して,本科学研究費で導入したオートシーケンサーを使い,葉緑体DNA上のrbcL,marK,およびtrnT(UAA)〜trnL(UAA)5'exon(約450bp)、trnL(UAA)3'exon〜trnF(GAA)(約400bp)の2つの遺伝子間領域とtrnL(UAA)intron(約500bp)の塩基配列を解読した.その結果,日本産の7種は互いにこれらの分子情報で区別できること,2つの変種はこれらの領域では母種と区別されないことが分かった.また,これらの情報を基に日本産のトウヒ属の分子系統樹を構築した.これらについては1997年3月の日本植物分類学会大会(神奈川)で発表する. 同時に上記化石から現生試料と同じ方法を用いて全DNAの抽出を行い,いくつかの試料でDNAをとることが出来た.これら抽出されたDNAについて上記領域の増幅を試みたが,増幅が見られた数個の試料のうち,塩基配列からトウヒ属のものと判断されるものは,青森県木造町の球果試料の一つで,その塩基配列は調べられた範囲に於いてはアカエゾマツのそれに全く一致した. 他方,これらと平行して化石球果形態の現生種との比較のため,北海道各地,岩手県早池峰山,南サハリンのアカエゾマツの球果形態の種内変異の解析を行った.その結果,種内に大きな形態の変異はあるものの地域個体群や種内分類群を認めるような分化は起きて無いことが明らかになった.この結果についても日本植物分類学会大会で発表する.
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