研究概要 |
単結晶シリコンの結晶異方性エッチングプロセスをマイクロマシニングの観点から研究した.KOH水溶液および水酸化アンモニウム(TMAH)水溶液に対するシリコンのエッチング速度を多数の面方位について測定し,結晶方位依存性を明らかにした.実験はそれぞれの濃度と温度を広範囲に変えておこなった.この結果,それぞれのエッチング液の濃度・温度によって結晶方位依存性が変化すること,また,(111)周辺のエッチング速度の結晶方位依存性がKOHとTMAHとで明らかに異なること,が判明した.これは,方位依存性がダイヤモンド結晶構造に由来するという従来の説では説明できない事実であり,結晶異方性エッチングの機構に結晶原子の結合エネルギ以外の要因が存在することを示した. 次いで,KOH水溶液による結晶異方性エッチングにおけるエッチング面の粗さについて研究を進めた.面粗さを結晶方位との関係において整理し,面粗れの進行は加工面の結晶方位に強く依存することを明らにした.平滑な面は(100)(211)(311)に現れ,非常に粗い面は(320)(210)に現れる.エッチング面をミクロ的に観察すると,粗面化した表面は特定の結晶方位からなる多面体で構成されていることが判った.この事実から,エッチング速度の方位依存性とエッチング面の粗面化に何らかの関連があるものと考える. 本研究の結果得られたエッチレートのデータは,マイクロマシンデバイスの製作工程設計におけるプロセスシミュレーションを可能にするものであり,工業的に直接貢献すると同時に,エッチングメカニズムの原子レベルのモデルを確立するという学術面において,貴重な実験データとなる.この見地から,オランダ,トエンテ大学を初めとする物理化学研究者との共同研究を開始する運びとなった(平成10年度科研費国際学術研究-共同研究に採択決定).
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