研究概要 |
我々は,腱および靭帯の適応現象を,ミクロなレベルからマクロなレベルまで,詳細に調べてきた。ミクロレベルの検討では,家兎膝蓋腱の線維束を培養系において観察し,負荷と適応現象の関係を定量的に求めた。また,マクロレベルの検討では,家兎膝蓋腱の負荷を増大・減少させ,腱の構造と力学的特性の変化を求めた。本研究ではこれらの研究の延長として,靭帯内に作用する負荷が,靭帯の部位に依存することに着目し,靭帯内の負荷の分布と力学的特性の分布を調べ,両者の関係を調べた。ヒトおよびヤギ膝の前および後十字靭帯を研究対象として,健常状態における力学的負荷と力学的特性を調べた。その結果,以下のことを明らかにした。 1)前十字靭帯 ・負荷は,屈曲角度依存性,および部位依存性を示し,伸展位および軽度屈曲位では後外側部に,屈曲位では前内側部に,より大きな負荷が生じる。 ・力学的特性は,屈曲角度依存性,および部位依存性を示し,屈曲するにつれて後外側部の剛性が低下する。 2)後十字靭帯 ・負荷は部位依存性を示し,前外側部に大きな負荷が生じる。 ・力学的特性は部位依存性を示し,前外側部の剛性が高い。 以上から,負荷の分布と剛性の分布がほぼ一致していることが示された。このことから,膝靭帯は,本来的に,特定の屈曲角度において効率的に支持機能を発現するための力学的特性および構造を持つ.いわゆる最適設計性を有しており,この最適設計性が力学的負荷により維持されていることが示唆された。この生体組織特有の適応現象に基づく支持機能発現のメカニズムを模倣することにより,従来では得られなかった高機能を有する機械部品の設計が可能になると考えられた。
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