研究概要 |
本研究が開始された頃のハードディスクシステムのための記録符号に関する研究環境としては,従来の一次元2値レベルでもって(d,k)制約,すなわち磁化反転の最小及び最大間隔制約の改善を行うだけでは,恐らく二十一世紀に期待されている超高密度記録に対応できないだろうとの共通認識があった.勿論,この符号条件の場合d≦kであり,符号化率η≦1に止まっている.そしてこれを解決することのできるブレークスルーとして, (1) 符号利得の改善(あるいは誤り訂正機能の向上) (2) η>l実現を可能にする多値化(3値あるいは4値レベル) (3) トラック方向の同時符号化も考慮して,面密度改善を目指す二次元化 などの手法開発に注目が集まり出していた. 本研究は,上記(1)を主とする研究内容を持っている.取り分け,記録符号,パーシャル・レスポンス(PR)等化方式,最尤(ML)信号検出法の一つであるViterbi方式それぞれが,そのモデルとしていずれも有限状態オートマトン理論でもって記述できることに着目し,トレリス技術の中でもこの特徴を適確に生かせるTCPR(Trellis Coded Partial Response)方式を開発することが主たる目標であった. まず初年度は,η=1/2,2/3及び3/4の一次元PR1(すなわちPR(1.1))方式を開発し,ビット誤り率(BER)特性が規格化線密度Kを当時最良のK=2.4とした場合η=1である従来のNRZI符号+PR1ML方式に比べて優れていること,ならびにK=3.0と近い将来の目標線密度に高めた場合η=3/4 TCPR1方式のみが優れており,高密度では符号化利得よりηの改善が重要であることを明らかにした. 次年度には,高密度記録になる程PR(1,-1)よりPR(1,1)(すなわちPR1)の方がTCPRとしては優れたBER特性を示すことを明らかにしたが,この頃ハードディスクの高密度化達成目標が高度情報化の進展と光記録システムの急速な発展に伴い,20Gビット/(インチ)^2から40G〜80Gと大幅に変更が行われた.このことに伴い,これを達成するため垂直記録の実用化に一層の拍車がかかると共に,記録符号や信号処理にも一段と要求が強まった.例えば,シャノン容量をさらに増加させることや,d>k特性の実現,トラック間の直交性を考慮することによる面密度改善などが求められ,必然的にこれらすべてを満たす二次元手法の導入気運が世界的に盛り上がって来た. 最終年度は,このような研究環境の激変に対応するため,平成10年度の実績報告書に詳述した通りの二次元MTRトレリス符号開発を行い,同一符号化条件下では超高密度(例えばK=5.0)の場合,一次元の場合に比べてBER特性に大幅な改善のあることを明らかにした.尤も,本年度行えたのはそのための基礎的な検討に止まっており,今後この符号の特性改善はまだまだ行わねばならないし,また行うだけの意義が十分にある符号であることを確認している. なお,多値符号についても解析と新たな符号の開発などの検討を行ったが,この成果については光記録分野の方がむしろ大いに関心を寄せて来ている.また,二次元符号それ自体についても,その解析と新たな符号の開発を行った.その結果は,η>1やd>kの符号開発の実現,BER特性の大幅改善が得られ,この改善傾向はトラック数Lを2から3と増加することで飛躍的に向上することも同時に明らかにしている. 最後に,昨今の超高密度記録への急速な動きの中,記録符号研究の未来への展望について,多くの研究者に戸惑いが見られる.このため,長年この分野に携わって来た研究者として.これを体系付けて“越し方行く末"を総括したことも本研究における成果の一つであった.
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