研究概要 |
セラミックス界面では,ファン・デル・ワールス(vdW)力が,表面間の距離の逆2乗に比例する長範囲ポテンシャルを与える.従って,原子間の結合距離を超えるような,10Å程度のスケールになると,静電気とともに重要な寄与を示すようになる.この長範囲のvdW力の存在そののものについては1930年代から知られており,コロイド科学の分野では,確立された概念であった.これをD.R. Clarkeは,セラミックス粒界のガラス層の問題に適用できることを1985年に初めて指摘した.本研究の代表者の田中は,このD.R. ClarkeとM. Ruhleらと共同して,窒化ケイ素の粒界ガラス層の厚みを高分解能電子顕微鏡を実測することにより,窒化ケイ素の粒界間のvdW力を評価することに世界で初めて成功し,粒界不純物の粒界挙動に及ぼす影響を定量的に議論した.本研究は,この延長線上に位置づけられ,以下の2点を目的として行われた. 1)界面vdW力の理論計算と実験的検証 vdW力の起源となる価電子帯から伝導帯へのバンド間遷移スペクトルの計算をDV-Xa法で行い,これと平行して行う実験結果と比較検討する.(Si_3N_4系とSiC系) 2)焼結体中の粒界厚み測定およびELNES法による電子分光 Si_3N_4系とSiC系の高純度標準サンプルについて,高分解能電子顕微鏡による粒界厚み測定実験を行う. その結果,vdW力の起源となる価電子帯から伝導帯へのバンド間遷移スペクトルの計算をDV-Xa法で行うアルゴリズムを構築し,vdW力の理論的見積もりを行うことに成功し,また高分解能電子顕微鏡法による実験により,多く新しい知見を得た. さらに,粒界層から電子線エネルギー損失分光法(EELS)の吸収端近傍微細構造(ELNES)の測定によって,界面結合について情報を得るための基礎として,そのDV-Xa法による解析プログラムを構築し,多くの成果を得た.
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