研究概要 |
自然界から単離した糸状菌Mortierella alliacea YN-15は,グルコースと酵母エキスからなる単純な培地組成においてフラスコレベルで最大3.9g/Lの,また,ジャーファーメンターにおいては5.0g/L以上のアラキドン酸を生産した。可溶性デンプンに対しても非常に高い資化性を有し,アラキドン酸生産量も3g/L以上であった。同様に自然界からの検索を行い,アラキドン酸およびイコサペンタエン酸を全脂肪酸中にそれぞれ約20%および15%含む新規な産生菌Achlya sp.ma-2801を見出した。さらに,広島湾の海水から新規DHA産生菌を松花粉を用いた釣餌法により探索した結果,8株を単離することが出来た。そのうちTraustochytrium sp.と同定されたH6-10株についてジャーファメンターによる培養を行ってDHA産生能の評価を行った結果,DHAなどPUFA含量の高いリン脂質を多量に産生することが分かった。Schizochytrium sp.SR21についてDHA高生産性変異株の取得を試みた結果,DHA含量が43%と野生株よりも高く,菌体増殖量,脂質含量においてほぼ匹敵する菌株MS14-13を見出し,高生産変異株としての利用が可能であることを示した。高度不飽和脂肪酸生合成経路の鍵となるΔ6不飽和化酵素遺伝子を藍藻から取得した。その酵母での発現によりリノール酸からγ-リノレン酸への変換を実現させた。 アレルギー患者の血漿リン脂質および血球脂質における脂肪酸組成を分析した。特異IgE量を表すRAST値と脂肪酸組成の相関をみたところ,ダニRAST値の高い患者ほどリノール酸含量が高い傾向がみられ,患者におけるΔ6不飽和化酵素の活性が低いことが予測された。 高度不飽和脂肪酸生産菌の育種は多段階の酵素系について制御することが必要である。すなわち,部分欠損変異株の取得,酵素遺伝子の取得による組換え体の作成などを行い,この生合成系についての解明を行うなどさらなる検討を要する。
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