研究概要 |
生体内の水の動的状態は代謝と深く関与し、重要な意義をもつ。本研究では環境応答として園芸植物の水分子や、糖分子の動態変化をNMRイメージング(MRI),NMR顕微鏡、高分解能多核NMRで非破壊的にモニターし、さらに顕微化学的観察により水の動態に及ぼす要因を探った。1)チューリップ球根におけるMRIによる休眠打破過程の探査(論文1,2,3,4,5,10,11)。鱗葉の表皮周辺に局在していた自由水は低温処理によって組織全体に広がり、このとき、澱粉粒と核の消失を伴うことを明らかにした。常温にシフトした球根の呼吸活性は著しく増大し、TNBTによる染色パターンはMRIともよく対応した。伸長期の花茎や鱗葉では、自由水成分の割合が著しく増大したことから、低温誘導による澱粉粒の分解は呼吸活性の増大と水の運動性増大の双方に作用し、チューリップ花茎の健全な生長に寄与していることが示唆された。2)オオムギ種子の発芽過程におけるNMR顕微鏡による糖の分布の解析(論文6)。発芽初期には麦芽糖含量の増大と中性脂肪の減少を伴い、糖は維管束周辺と胚乳、シュートに蓄積していることを明らかにした。シュートに存在する糖は蔗糖、ブトウ糖で構成され、これらの糖は維管束を移動し、速やかに葉の葉肉組織に取り込まれることを明らかにした。3)果実の成熱過程における水のコンパートメントの解析(論文7,8,9)。イチジク、ウメの果実は、成熟に伴い自由水含量が著しく増大することを明らかにした。さらにT_2は、細胞壁の分解によって増加した水溶性ペクチンと高濃度の糖との相互作用によるゲル化の影響を強く受けていることを示した。また、オウトウ果実の果肉と種子の自由水分布は成熟に伴い反転することを明らかにした。
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