研究概要 |
シラス型変態魚類とは,細長い体形で黒色素胞の発達が悪いシラスと呼ばれる仔魚から,成魚的体形へと形態変化を遂げる魚種を指しており,マイワシ,カタクチイワシ,イカナゴ,アユなど,漁業資源として重要な種が含まれる。これらの種では年々の資源量変動が大きいことで知られる。資源量変動を左右する要因として,仔稚魚期の成長速度が重視される。 仔稚魚期の成長を1日という時間単位で解析するために,1980年代以降耳石の日輪が用いられるようになった。イカナゴの仔魚期初期には光学顕微鏡の解像力以下の微細な輪紋が形成されることが確認された。またマイワシ耳石で光顕的に日輪構造が不明瞭な部分にも目輪構造が形成されていることが電子顕微鏡で確認された。 個体が経験した海洋環境を復元する指標として耳石中のストロンチウム量とカルシウム量の比(Sr:Ca)が用いられる。アユ耳石のSr:Ca比によって両側回遊型と非両側回遊型の識別,各個体の遡上時期の推定ができた。しかし,マイワシでは耳石Sr:Ca比は水温変化とも塩分変化とも明瞭な対応を示さす,環境履歴の解析に用いることができないことがわかった。 耳石日輪を用いてカタクチイワシ仔稚魚の成長解析を行った結果,黒潮親潮移行域では沿岸から沖合に向かって成長速度が傾斜的に低下することがわかった。マイワシ仔魚期の成長を求めたところ,シラス漁場の仔魚は沿岸への来遊とともに成長が停滞すること,沖合の黒潮域ではそのような成長停滞が見られないことがわかった。また,黒潮親潮移行域以北へ回遊した群では成長の個体差が小さいことがわかった。これは東北沖へ回遊した群では黒潮親潮移行域に起こる環境変化を全個体が同じように受けている可能性を示しており,東北沖の群の資源量変動が沿岸へ来遊する群の変動より大きいという経験的事実を説明する可能性が示唆された。
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