研究概要 |
本研究では,「流域圏」「ネットワーク」「傾斜地」を主要概念として,農業・農村の整備・保全の方策を検討した.「流域圏」の概念を導入し,基本単位となる経済流域圏を,用水の需給構造を有機的に構成する「利水需給構造をベースにした経済圏域」であると考えた.例えば,近畿経済圏の中には,淀川流域圏,紀の川流域圏等の大規模流域圏があり,それぞれに支川を基礎とした小流域圏が特定できる.この流域圏認識の下で,傾斜地農業の振興を含む地域整備の方向について,事例分析を通して考察を行った.まず,紀の川流域圏の伊都那珂地区を取り上げ,小流域圏を基礎とした傾斜樹園地の整備方策の検討を行い,段階的基盤整備方策を提案した.そして,傾斜地水田における基盤整備の方向とその利活用の活性化について,大阪府能勢町の棚田を事例から考察した.また,傾斜地農業の一方の対をなすと考えれれる「大区画圃場における効率的生産」を比較検討すべく,大規模営農と大区画整備の方策を,兵庫県,滋賀県,京都府での事例考察から検討し,小流域圏をベースにした受委託農業・経営委託が活発に行われていることと,今後の農地流動化の方向性を示した.次に,溜池を水源とする小流域の水源開発の歴史的展開と水利慣行の分析から,現代の傾斜地農業の振興手法を分析した.そして,阪神・淡路大震災が淡路島北部の農業用溜池と流域の水利用に及ぼした影響について分析し,水利ネットワークの役割と整備方向を検討した.さらに,紀の川流域における農業用水利用と流域水循環の関係を,モデルを開発して分析し,大規模流域圏の水文学的モデルの有効性を示した.最後に,今後の地域環境整備にリスクマネジメントを導入する意味と,それを踏まえた農業・農村整備の課題を考察した.そして,琵琶湖集水域を事例にして、農業水利システムの課題を,同一の流域圏の共通課題として整理し,今後の整備の課題を考察した.
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