研究概要 |
本研究は,受精の引き金になる細胞内カルシウムイオン(Ca)増加反応に至る精子による卵活性化の分子機構を解明するステップとして実施され,顕微細胞操作の技法,Ca画像解析装置および共焦点レーザー走査顕微鏡を用いて以下の結果を得た. 1)まず現像論として,ウニ精子-卵融合が一過性にしかおこならい条件を融合阻害剤ジャスピシン存在下で設定し,精子が最初に卵に引き起こす電流変化およびCa増加反応を同時記録し,精子結合部位直下の卵細胞内で局所内におこるCa増加を分離して記録することに成功し,その時・空間的特性を解析した.2)マウス成熟卵内への精子注入を行い,受精時に類似した反復性のCa増加(Ca振動)が15〜30分後に起こり初め数時間持続すること,Ca増加は卵全体で同期的に起こることを示した.精子-卵結合をバイパスしても,注入精子の細胞質因子が卵細胞質に漏出してCa増加反応,卵活性化をおこしうることを示した.3)マウス未成熟精子(円形精子細胞)の卵内注入ではCa増加反応は誘発できず卵活性化もおこらないが,IP_3受容体の強力なアゴニストであるアデノホスチンを同時注入して人為的にCa振動を誘発し,受精させることに成功した.さらに2細胞期胚を宿主母体に移植し,正常な産仔を得た.4)卵内注入によってCa振動を誘発する活性をもつ蛋白質をハムスター,ホヤ精子から抽出した.この抽出物をハムスター,マウス,ホヤ卵の表層および中心部にそれぞれ微量注入し,卵表層部細胞質が中心部に比べて精子因子に対する感受性が強いことを明らかにした. これらの実験により,受精時に卵面に結合した精子細胞質から精子由来卵活性化因子が卵表層細胞質に導入されてCa増加反応(恐らくIP_3受容体を介する小胞体から細胞質へのCa遊離)を誘発する可能性が示された.本研究は今後の研究の発展に繋がる有用な実験データを提供したことで,成果をあげたと考える.
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