研究概要 |
我々は、強力な生体内抗酸化物質として、重要な生理機能を持つことで注目されているビリルビンに着目し、種々の病態の発症前後に生成する活性酸素種とビリルビンとの反応物質(biopyrrin)が尿中に排泄されることを明らかにしており、このビリルビン酸化生成物(biopyrrin)をストレスマーカーとしてモニタリングすることにより、各種疾患(病態)の臨床的な検査、診断方法の確立を展開研究として進めた。in vitroにおけるBRは生理的な酸素濃度では、ビタミン-Eを凌ぐ抗酸化作用を示している(Stocker et al.Science,1987)。in vivoにおいては、申請者らにより開発された抗ビリルビン単クロBVーン抗体(24G7)(山口ら、Biochem.Biophys.Acta 1988,ibid 1991)を用いた酵素抗体法(ELISA)によって、このBRが生体内で活性酸素種のスカベンジャーとして働いていると考えられる知見を得ている(山口ら、Biochem.Biophys.Res.Commun.1995)。そこで多量の尿より、24G7に反応するbiopyrrin(X)の抽出分離を行い、現在まで7種類のXの存在を確認している。その内、X1,X2の分子構造の同定に成功した(山口ら、J.Biochem.1994)。X1は、1,14,15,17-tetrahydro-2,7,13-trimethyl-1,14-dioxo-3-vinyl-16H-tripyrrin-8,12-dipropionic acid,X2は、1,14,15,17-tetrahydro-3,7,13-trimethyl-1,14-dioxo-2-vinyl-16H-tripyrrin-8,12-dipropionic acidであり、過去に報告例の全く無い新規なtripyrrole化合物で、BV、BRに次ぐ第三の胆汁色素であった。近年、多くの研究者により、生体にストレスを与えると、細胞内還元型GSH濃度が低下して、ひいては活性酸素の生成により酸化的ストレスを引き起こし、その結果、誘導型のheme oxygenase(HO-1)が強く発現されることがわかっている。この酸化的ストレスにより誘導されたHO-1は、cytochrome P-450などのヘムを分解してBRの産生を増加させ、必然的に活性酸素種のスカベンジャーとして働き、結果としてbiopyrrin(X)が生成されるものと思われる。事実、申請者らの研究により、長時間に亘る開腹手術の患者尿において、術前に比して術後6日目尿中biopyrrin(X1,X2)は、約20倍に増加しており、また、ラットにエンドトキシン(1mg/kg)の腹腔内投与後、3時間と10時間目にX1とX2を含むbiopyrrin(X)の尿中への排泄が5-20倍に増加していた。さらに、これらはBR生合成の律速酵素であるHO-1の誘導とも連動していた(山口ら、Biochem.Biophys.Res.Commun.1996;Eur J.Biochem.1997)。
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