研究概要 |
1. 肺末梢型扁平上皮癌(SCC)と腺扁平上皮癌27例の前癌病変につき検討した.(1)両者共,非癌部の間質線維化を高頻度に伴い,肺胞細気管支上皮過形成(AH),異型腺腫様過形成(AAH),さらに,AAHの一部に扁平上皮化生を伴う「AAH様病変」もみられた.(2)また,末梢型SCC非癌部の小気管支・細気管支に扁平上皮化生一異形成を示す例もあった.(3)Surfactant apoproteinの発現がAHでは増加し,AAHでは低下した.p53は1例のAAH様病変のみで陽性,c-erbB-2は全例で陰性であった.PCNAまたはMIB-1のlabeling indexはAH,AAH,AAH様病変の順に上昇した. 2. 肺大細胞癌の初期像検索の目的で,主に未分化大細胞より成る肺癌20例を解析した.免疫組織化学的染色,また,EBウイルスのin situ hybridization検索を行った.その結果,(1)多くの肺大細胞癌は扁平上皮癌または腺癌のプログレッションによって生ずること,(2)EBウイルスと関連する少数例は最初からリンパ上皮腫様癌として発生すること,(3)大細胞性内分泌癌としての発癌経路もあることが示唆された. 3. 肺小細胞癌の組織発生検索の目的で,小細胞癌と非小細胞癌の混合腫瘍のクローン性をp53遺伝子異常の起こり方から検討した.先ず,pureな小細胞癌11例におけるp53遺伝子シークエンスを調べたところ,点突然変異は8例にみられ,その部位には同一例が認められなかった.混合型の4症例では全てに点突然変異をみたが,その部位はいずれもexon5に集中していた.しかし,突然変異のcodon部位については,小細胞癌と非小細胞癌で一致がみられず,両者は別個のクローンであることが示唆された. 4. 前癌病変検索のテクニック開発の研究も行った.(1)TUNEL法に関して,組織の前固定時間と固定時間の影響をラットの胸腺と脾臓で調べた.直ちに固定した標本に比べ,前固定時間が2時間を過ぎるとラベルされる陽性細胞数が増加し,24時間を越えると組織抽出DNAの電気泳同でラダーパターンが認められた.固定時間自体の長さはTUNEL法に影響しなかった.(2)X染色体遺伝子不活化に基づくクローン性判定を目的として,HUMARA遺伝子解析法の改良に努めた.この方法で,Bowen病の前癌病変とされているbowenoid papulosisには多クローン性が認められ,その前癌性は高くないことが示唆された.
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