研究概要 |
最近,麻疹ウイルスワクチン株に対する細胞受容体は,補体制御因子の一つであるCD46であることが明らかにされた。また,患者分離株(野生株)はマ-モセット由来のB細胞株であるB95a細胞を用いて高率に分離されるようになった。本研究では,先ず,麻疹ウイルスワクチン株であるEdmonston株と患者から分離した野生株の種々の培養細胞における増殖とcytopathic effectを検討した。その結果,野生株はCD46を発現している多くの培養細胞でほとんど増えず,細胞融合も起こさないことが分かった。さらに,これらの野生株はCD46のdownregulationを起こさなかった。Edmonston株のH遺伝子とF遺伝子をHeLa細胞,Cos細胞,B95a細胞に遺伝子導入するといずれの細胞でも合胞体形成を認めた。しかし、野生株のH遺伝子とEdmonston株のF遺伝子の遺伝子導入ではB95a細胞には合胞体形成を認めたが、HeLa細胞,Cos細胞には合胞体形成は起こらなかった。野生株のH遺伝子とEdmonston株のF遺伝子を発現させたCos細胞を種々のCD46陽性細胞と混合培養すると,B95a細胞を加えた時には細胞融合が起こったが,それ以外の細胞では融合は起こらなかった。さらに,RT-PCRによる解析で,B95a細胞のCD46はEdmonston株の感染に必須とされているSCR1ドメインを欠いているものがほとんどであった。これらの研究結果から,麻疹ウイルス野生株の感染には,CD46以外に受容体として働いているものがあると考えられる。麻疹の病態を解明するにはワクチン株ではなくて,野生株に対する受容体を同定することが不可欠である。現在,われわれは,麻疹ウイルス野生株の受容体に対する抗体の作製およびexpression cloningによる受容体遺伝子の同定を進めているところである。
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