研究概要 |
虚血性心疾患は突然死の死因の約2/3を占め、過労や事故等のストレスと死の因果関係判定をめぐって、法医学実務上重要な疾患である。私達は短時間虚血や再灌流ラット心臓において、細胞内で活性化されて細胞外の情報を核や細胞膜に伝達し、心筋障害の進展、あるいは逆に抑制に働く、一群の酵素を研究してきた。 本研究では、短時間の虚血後、Protein Kinase C (PKC)-α、δ,ε,ξ isoformが細胞質から膜、核へ、あるいは膜から細胞質へ転移することを明らかにした。この転移にはPhosphatidyl Inositol-3-KinaseやCa^<2+>依存性プロテアーゼであるcalpainが関与していた。さらに短時間虚血再灌流反覆による長時間虚血再灌流に対する保護効果にもPKC-α,δ,ε isoformのいずれかが関与していることを見出した。 Mitogen Activated Protein Kinase(MAPK)やJun-N-terminal kinase(JNK)は、増殖因子や各種のストレスにより活性化されて核に移行し、早期反応遺伝子(c-fos,c-jun等)の誘導や転写調節に関与することが知られている。私達は虚血によりMAPKやJNKが細胞質から核へ移行し、再灌流中、核で活性化されることを見出した。従来、MAPKは細胞質で活性化された結果、核に移行すると信じられてきたが、MAPKやJNKとも転移とは別の機序で核で活性化されることを初めて示した。またc-fos,c-junも再灌流時急速に誘導された。現在、虚血再灌流心や低酸素再酸素化培養心筋に誘導されるストレス応答蛋白質の存在を確認して、蛋白の同定と誘導機序の解明に取り組んでいる。
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