研究概要 |
細胞分裂毎に短縮する染色体末端を伸長し,細胞の分裂寿命を延長させる酵素テロメラーゼは,不死化した癌細胞のみならず末梢血リンパ球にも活性があり,in vitroの増殖刺激で増強することを報告してきたが,本研究で,呼吸器疾患におけるテロメラーゼ活性は,癌の診断および生物学的悪性度の指標となり得ること,びまん性肺疾患では疾患活動性の指標となり得ることを示した.すなわち肺癌のテロメラーゼ活性は,小細胞癌,p53およびRb癌抑制遺伝子の両方にヘテロ接合性の消失(LOH)を認めた症例に高活性例が多く,病期や腫瘍径とは明らかな関連性が認められなかった。テロメラーゼ活性レベルは、個々の遺伝子変異や臨床背景よりもより総括的に腫瘍の生物学的悪性度を反映した指標となることが期待された。肺癌症例の細胞診検体を用いて,テロメラーゼ活性と細胞診の判定との比較検討を行うと,小細胞癌の胸水例では,細胞診陰性でもテロメラーゼ活性が検出され,その数カ月後の細胞診で悪性細胞が検出された症例もあり,従来の細胞診とテロメラーゼ活性を組み合わせることで,より診断率の向上が期待できるものではないかと考えられた。 びまん性肺疾患の検討では,各種呼吸器疾患のBAL細胞についてテロメラーゼアッセイを行った。76例中4例(5.3%)に活性を検出したが,そのうち3例が膠原病症例で,いづれもリンパ球比率が増加しており,うち2例はステロイド療法にも反応せず,予後不良であった。しかし,リンパ球が著増しているサルコイドーシス症例では有意な活性は認めず,これらの疾患におけるリンパ球の活性化機序が異なる可能性が示された。BAL細胞のテロメラーゼ活性は,びまん性肺疾患の活動性の新たな指標となる可能性とともに,新たな治療戦略のターゲットとなる可能性が期待された。
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