研究概要 |
DNAプローブを用いたin situ hybridizationと同様の特異的結合反応をin vivoでも実現すれば,がん細胞の遺伝子レベルでの性状に関する情報を,体外から核医学診断装置で評価する道が開かれる.具体的には,放射性アイソトープ標識アンチセンスオリゴヌクレオチド(DNA)を体内投与し,その放射能局在をγカメラで評価する.そのためには,イメージングに適したアイソトープをオリゴマーと安定に結合させる標識方法が必要である.アンチセンス構造としては,抗がん剤の多剤耐性と関連するP糖タンパクをコードするmdr 1遺伝子をターゲットとした.フォスフォロチオエート結合のアンチセンスDNAの5'末端にチオール基を導入し,マレイミド-ベンジル-EDTAと直接結合させる方法を試みた.しかし,オリゴマーの反応性チオール部分が酸化されていた可能性もあり,目的の生成物を得ることはできなかった.還元剤を併用するなどして,さらに,確実に反応する条件を見い出す必要があると考えられた.一方,オリゴマーのような低分子化合物の標識体は,血中クリアランスが著しく早く,腫瘍への絶対的集積量が制限される.そこで,腫瘍の血行動態を改善し,標識体のデリバリィを向上させる方法を試みた.ヒト大腸癌LS-180移植ヌードマウスにおいて,アンギオテンシン-IIによる昇圧操作に基づく腫瘍血流増加作用およびキニナーゼ阻害剤(エナラプリル)による血管透過性亢進作用を検討した.アンギオテンシン-IIによる昇圧作用は,0.5-2mg/kg/minの範囲において投与量依存性を示し,2mg/kg/minのアンギオテンシン-IIと30mgのエナラプリル投与によって最も良好な腫瘍集積改善効果が得られた.この操作により,アイソトープ標識アンチセンス分子の正常組織分布を変えることなく,高い腫瘍集積を維持しえるものと考えられた.
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