研究概要 |
RT-PCR法にて、ラット脳内でのIL-1bおよびIL-1Ra mRNAを定量する方法を確立した。この方法を用いて、IL-1RaおよびIL-1b mRNAの量の拘束ストレスに対する変化を、ラット視床下部、海馬、前頭皮質、脳幹、小脳において調べた。次に、向精神薬のストレス抑制効果に、IL-1bないしIL-1Raが関与している可能性を調べるために、ラットに抗うつ薬(イミプラミン,マプロチリン,フルボキサミン)・抗精神病薬(クロールプロマジン,ハロペリドール)・抗不安薬(ジアゼバム)を1、4、28日間経口的に投与し、視床下部、海馬、前頭皮質、脳幹における両サイトカインのmRNA濃度の変化を調べた。結果は以下の通りだった。 1.調べたすべての脳部位でIL-1bおよびIL-1RaのmRNAとも、拘束開始後増加した。IL-1b mRNAのピークは拘束開始後約30分で、IL-1Ra mRNAは約2-4時間後だった。IL-1Ra mRNAは12時間後も有意な増加を続けていた。 2.28日間投与では、IL-1bmRNAは、ジアゼパムでは有意な変化を認めなかったが、他の薬ではほとんどの部位で増加した。同じく28日間投与で、IL-1Ra mRNAの方はクロールプロマジンの視床下部を除くすべての脳資料で増加していた。28日間投与におけるIL-1bとIL-1RamRNAの増加率は、前者が12〜72倍であったのに対し,後者は74〜467倍であった。 以上より、ストレスによってその活性が上昇することが知られていたラット脳内IL-1に対し、それを抑制するメカニズムが存在することが示唆された。また、向精神薬の慢性投与はIL-1bとIL-1Raに対し、遺伝子レベルで影響を与えることがわかり、これら薬物の持つ抗ストレス作用を含めた行動学的作用と薬理作用との関係が今後検討されるべきであると考えられた。
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