研究概要 |
1)膵共通前駆細胞に類似した性質をもつAR42J細胞をアクチビンAによって膵ポリペプチドを産生する内分泌細胞に分化させられること,さらにベータセルリンを作用させることによりインスリン産生細胞へと分化させられることを明らかにし,膵内分泌細胞の分化過程を検討するモデル系を確立した。 2)このAR42J細胞を用いて,肝細胞増殖因子(HGF)にベータセルリンと同様の分化誘導作用があることを明らかにした。さらにHGFによく反応してインスリン産生細胞へと分化するサブクローンを確立した。 3)アクチビンAが膵内分泌細胞において2つの独立した情報伝達系路を活性化することを明らかにした。 4)膵AR42J細胞には,ベータセルリンの特異的な受容体があること,クロスリンク実験によりベータセルリンは分子量180KDaと190KDaの膜蛋白に結合すること,この180KDa蛋白はEGF受容体であるErbB1であるが,190KDa蛋白は既知の抗ErbB抗体によっては認識できない新たな蛋白であること,ベータセルリンによってErbB1,ErbB4とともに190KDa蛋白がチロシン燐酸化されること、ベータセルリンの作用はEGFで十分には再現されないことからおそらくErbB1とともに190KDa蛋白を介して分化シグナルが伝達されることなどを明らかにした。 5)AR42J細胞においてHGFおよびベータセルリンはMAPキナーゼを活性化させること,MAPキナーゼを抑制するPD098059やMAPキナーゼフォスファターゼ遺伝子を導入することにより分化が抑制させること,構成的活性型のMAPキナーゼキナーゼ遺伝子を導入すると分化が観察されることなどを見出し,インスリンへ細胞の分化にMAPキナーゼ経路が重要であることを明らかにした。 6)アクチビン作用をブロックする変異アクチビン受容体を過剰発現するトランスジェニックマウスを樹立した。このマウスにおいては膵内分泌細胞の分化が抑制されているだけでなく,外分泌細胞にも分化異常が認められ,アクチビンあるいは類似の因子が膵内分泌腺細胞,外分泌腺細胞の分化に重要であることを明らかにした。
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