研究概要 |
私たちは研究目的に鑑みて二つのモデル系を用いた実験に取り組んだ。一つは胎生期マウスへの低線量放射線照射であり、二つ目はギャップ結合構成蛋白質コネキシン遺伝子ノックアウトマウスの胎仔期を対象とした解析である。 その結果、胎生中期、すなわち大脳皮質を形成する神経細胞の産生・移動の最も盛んな時期のマウスに0.25Gy以上の低線量放射線を照射すると、短期的には母細胞層から皮質板に向かっての神経細胞移動が非照射対照群と比較して有意に抑制されることを見出した。さらに出生後の大脳皮質細胞構築を長期間追跡することにより、胎生期放射線(単回または連続3日間)照射によってみられた神経細胞移動の遅延は皮質神経細胞の位置の乱れとして生後も残ることを明らかにした(Acta Neuropathol.,93:443-449,1997;脳と発達,29:102-107,1997;J.Radiat.Res.,38:87-94,1997)。生後6日目のマウスに放射線を照射して小脳皮質顆粒神経細胞への影響を調べたところ、そこにおいても細胞移動の遅延や細胞死が観察されたが、影響を及ぼす線量は2Gyと胎生期大脳皮質に比し大きかった(J.Radiat.Res.,39:11-19,1998)。 一方、コネキシン43遺伝子ノックアウトマウスを対象として胎生期における大脳皮質神経細胞移動の解析を行ったところ、ホモ接合体においては母細胞層から移動層さらに皮質板に向かっての神経細胞移動が有意に遅延していることが判明した(現在、論文投稿中)。
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