研究概要 |
癌化学療法は、臨床上既に多くの成果を挙げてきているが,消化器癌、肺癌、乳癌など固型腫瘍については、完全寛解率は極めて低く、患者余命の延長への寄与も不十分である。こうした背景の中で、癌治療における薬剤選択の意義を新鮮ヒト腫瘍の抗癌剤感受性を判定し、検討してきた。それらの結果等より感受性試験の現行の癌化学療法における位置付けが未だに不明解である最大の原因が抗癌剤の不十分な抗腫瘍効果に帰することを明示してきた。そこで、抗癌剤感受性増強を目的とした遺伝子治療研究を展開してきた。その一部は癌の増殖及び転移形成における血管新生と癌細胞アポトーシスの検討へと継続してきた。癌の血管新生は胃癌(Cancer Res,1996)・大腸癌(Cancer Res,1997)・食道癌(Cancer,1997)・肝細胞癌(Hepatology,1997)など癌種の区別なく患者予後に密接に関連しており、また血行性転移の形成に強く関与していることも明らかにしてきた。(Cancer Res,1996,1997)。VEGFを介する癌細胞と間質の間のクロストークは胃癌患者の予後にまで関連していることが見い出された(J Clin Oncol,1997)。 PD-ECGF(Thymidine Phosphorylase, dThdPase)はVEGFに並ぶ代表的なangiogenic peptideであり、我々は血管密度の高い胃癌においてはPD-ECGFとVEGFが共発現していることを明らかにした(Cancer Letters,1997)。 こうして腫瘍の血管新生に密接に関連するPD-ECGF/dThdPaseは5'DFURなどフッ化ピリミジン系抗癌剤の感受性にもかかわっていることからPD-ECGFcDNAをヒト肺腺癌細胞株PC-9にリポフェクチン法により導入してPD-ECGFcDNAのstable transfectant PC9-DPE2を得ることができた。このtransfectantは母細胞PC-9の50倍のdThdPase活性が認められ、これらは免疫組織染色やWestern blotでも確認した。また、5'DFUR,Tegafur及び5-FUに対する感受性は母細胞に比べてそれぞれ167倍、26倍、8倍の増強が認められ、By stander効果が細胞非接触でも生じることを明らかにした(Br J Cancer,1997)。すなわち感受性増強を目的にした遺伝子治療は少なくともPD-ECGFcDNAの系において癌性腹膜炎時の腹膜腔への局所投与が理論的に成立することを示した。
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