研究概要 |
平成8年度〜平成10年度の研究成果として以下の点が上げられた. 1)ヒト胃癌細胞(HSC-39,MKN-28,KATO-III,MKN-45,MKN-74)をcisplatin(CDDP)と接触させアポトーシスを誘導した.p53遺伝子変異が無く,Bcl-2蛋白発現陰性株(MKN-45,MKN-74)で高率にアポトーシス発現を認め,p53 mutationや欠損が有り,Bcl-2発現陽性の(KATO-III,HSC-39,MKN-28)ではアポトーシス誘導は低率であった.MKN-74ではCDDP添加後経時的にwild-type p53蛋白発現は増加し,KATO-IIIではBcl-2発現はCDDP添加後経時的に減少した.以上より,wild-type p53蛋白発現は癌細胞の制癌剤感受性に重要な因子で,アポトーシスを用いた制癌剤感受性試験の有用性が示された.2)8例の家族性大腸腺腫症(FAP)の癌,腺腫のテロメラーゼ活性とp53のexon5-8の突然変異を解析し,テロメラーゼ活性発現とp53遺伝子突然変異との関連を検討し,手術時期を考察した.また,大腸癌68例,大腸腺腫19例のテロメラーゼ活性をFAPと比較した.複数個の癌を持つFAP5例で,癌,腺腫全てにテロメラーゼ活性が陽性で,3例は癌化が無く,腺腫のテロメラーゼ活性は陰性であった.一般大腸癌のテロメラーゼ活性陽性率は75%,腺腫で32%であった.テロメラーゼ活性は癌と併存した腺腫で45%であったが,腺腫単独で13%にすぎなかった.FAPのp53遺伝子突然変異は,複数個の進行癌癌を認めた2例の癌に認め,1例はexon 5の変異,他の1例はexon 8の変異であった.即ち,FAPではテロメラーゼの活性化はp53遺伝子異常より先行し,癌化のごく初期より活性化されること,また,腺腫が癌化する時期には,癌化の無い腺腫でもテロメラーゼ活性は陽性となり,この傾向は大腸癌に併存した腺腫でも認められ,癌化へ向かう遺伝子異常は全腺腫で起こる可能性が推察された.FAPでは腺腫のテロメラーゼ活性陰性時期の手術が理想的と考えられた.3)食道癌52例の癌巣,正常粘膜のテロメラーゼ活性を測定した.テロメラーゼ活性は癌巣で79%,非癌部正常粘膜でも高率(89%)に認められた.非坦癌患者の食道biopsy sampleのテロメラーゼ活性も73%に認められた.食道上皮において,テロメラーゼは基底細胞層の増殖細胞で強く活性化され,正常食道粘膜でも強い活性が認められるため,テロメラーゼ活性は食道癌と非癌の判定に有効ではないと考えられた.
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