研究概要 |
[目的]大腸癌の肝転移症例では、肝内sinusoidリンパ球(SMC)による生体防御機構が破綻していると仮説し、SMCと末梢血リンパ球(PBL)を比較検討した。 [方法]平成8年度に切除術を施行した大腸癌の肝転移7症例のSMCとPBLをフローサイトメーターでCD3,CD56,CD16,CD25,CD122等の表面抗原を解析した。症例の内訳は、35〜80才、男性4、女性3名、盲腸癌2、上行結腸癌2、S状結腸癌3の肝転移であった。なお、対照として、肝癌や、肝転移の無い胃癌、大腸癌の患者のPBLを用いて検討した。又、IL-2による反応性をMTT assayで検討した。 [結果]我々は、正常SMCは、PBLとは異なる生体防御を担い、apoptosisを引き起こす事を報告した。(J.of Hepatology,26:103-110,1997)。肝転移症例では、4例で、CD3陽性T細胞が、PBLでは30%以下(対照群では、50〜60%)、SMCでは40%以下といずれも低下しており、CD16陽性のNK細胞は相対的に25〜69%と高った(対照群では、20%前後)。PBLのCD4とCD8の割合が逆転している(1:2〜1:1)ものが3例あり、特にCEAの高い症例に認められた。さらに、正常では50%位と多く認められるSMCのCD8,CD56両陽性の細胞が、30%以下と低下していた。またIL-2受容体(R)のα鎖やβ鎖の発現は、freshでは認めず、IL-2との培養後、IL-2Rのα鎖の発現誘導を特にCD4陽性T細胞に認めた。 [結論]肝転移症例においてSMCのCTL細胞の割合が、正常人より低下しており、特にCEAの高い症例では生体防御能力が低下している可能性が示唆される。CTL細胞のIL-2との反応性の低下も注目すべきで、今後、肝転移症例の治療として、肝動脈や門脈からの抗癌剤注入に加えて、IL-2を添加注入する免疫化学療法により、SMCのCTLのpopulationを改善したり、IL-2Rのγ鎖の発現調節で肝転移の再発予防を積極的に進めることの有用性が示唆され、本治療法の検討を始めているところである。
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