配分額 *注記 |
6,600千円 (直接経費: 6,600千円)
1998年度: 1,500千円 (直接経費: 1,500千円)
1997年度: 1,300千円 (直接経費: 1,300千円)
1996年度: 3,800千円 (直接経費: 3,800千円)
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研究概要 |
胸部大血管手術においては,術中操作の必要性からしばしば循環停止あるいは下行大動脈の遮断を必要とするが,脊髄虚血およびそれに起因する対麻痺などの神経系合併症は,補助手段が発達した現在においても本領域における重大な合併症の1つとなっている.その発症機序として,脊髄への不十分な血液供給および虚血再灌流障害が報告されているが,その1つとして,特に鉄依存性の過酸化脂質生成を伴う各種のフリーラジカル産生が強く関与していることが示唆されている.本研究では,この鉄依存性の過酸化脂質生成を強力に阻害する薬剤として,最近開発されたラザロイドと呼ばれる一群の化合物に着目し,脊髄虚血再灌流障害におけるendothelial cell injuryの関与とラザロイドによる脊髄保護効果をサイトカイン系の変動からみて検討した.実験動物としてNew Zealand White Rabbitを用い,ぺントバルビタール麻酔下に開腹して腹部大動脈を20分遮断して脊髄障害による対麻痺モデルを作成した.合わせて脊髄虚血および組織酸素化の指標として,近赤外線法による脊髄組織酸素分圧を測定した.実験群は 1)ラザロイド前処置群(n=10),2)生理食塩水前処置群(n=10),3)Sham operation群(n=6)の3群に分け,ラザロイドの投与量は3mg/kg body weight,大動脈遮断(以下AXC)直前に投与することとした.AXC前,AXC解除5分前,5分後,1時間後にELISA法でIL-1b,IL-8,IL-1 receptor antagonist(IL-1Ra),およびL929 cytotoxic assayにてTNFαを測定した.脂質過酸化阻害による脊髄保護効果を評価するため,24,48時間後のTarlov Scoreによる機能評価および犠牲死後の摘出脊髄よりHE,K-B, GFAPの3種の染色標本を作成し病理学的評価を加えた.結果は以下の通りであった. 1) Plasma IL-8およびIL-1raレベルは遮断解除1時間後に最大値となった.ラザロイド前処置群のPlasma IL-8およびIL-1raレベルは生理食塩水前処置群より有意に低下しており(*p<0.05),Sham operation群と同等の値であった. 2) Plasma TNFαは遮断解除5分後に最大値となったが,その後遮断前のレベルまで低下した.各群間での有意差はみられなかった. 3) ラザロイド前処置群の脊髄組織内IL-8レベルは生理食塩水前処置群より有意に低下していた(*p<0.05).一方組織内IL-1raおよびTNFαレベルは各群間での有意差はなかった. 4) Tarlov Scoreおよび病理組織学的所見は,ラザロイド前処置群で生理食塩水前処置群と比較して著明に改善がみられていた. この結果は英文論文(Takashi Kunihara,Shigeyuki Sasaki,et al. Lazaroidreduces production of IL-8 and IL-1 receptor antagonist in the postischemic spinal cord injury.)として英文誌 The Annals of Thoracic Surgeryに投稿した.投稿英文論文の内容は「科学研究費補助金研究成果報告書」に記載する予定である.
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