研究概要 |
近年,顎口腔機能異常を主訴に来院する患者は増加し,全身にわたる凝りや疼痛,自律神経系の不調および心理的な不安定等,種々の全身症状を随伴することが多い.このような患者は,顔貌の左右非対称や姿勢のアンバランスを呈している場合が多く,咬合異常に起因する顎偏位が影響を及ぼしていると考えられる.これまでの本講座の研究により,咬合異常が咀嚼運動や発語運動等の顎口腔機能に及ぼす影響は明らかになっている.しかし,顎口腔機能異常に随伴する全身症状との関連性は明らかではなかった. そこで、下顎偏位が全身に及ぼす影響を知る為に,頚椎の配列形態および全身の姿勢について健常者と比較検討し,下顎の側方偏位と姿勢の関係,下顎偏位是正による姿勢および顎口腔機能の変化を明らかにした.また,下顎偏位と全身的不定愁訴との関連を知る為に,下顎偏位を伴う顎口腔機能異常者を対象に全身随伴症状を分析した結果,発現頻度に有意な特徴が現れ,頚肩部の症状は側方的下顎偏位側または咬合高径低位側に多く,腰部の症状は咬合高径低位側の反対側に多いことを明らかにした.さらに,下顎偏位が顎顔面部の形態に及ぼす影響を知ることを目的として,健常者および下顎偏位者の顔貌を二次元的および三次元的に分析した.その結果,顔貌の左右非対称性は健常者にも認められるものの,習慣性咀嚼側との関連は認められないことが明らかとなった.下顎偏位者は,健常者と比較して全身随伴症状の発現頻度が高く,特に下顔面の左右非対称が大きいことが明らかとなった. 以上のことより,下顎偏位は,姿勢および顔貌に影響を及ぼすと共に,全身的不定愁訴の発現に有意な特徴が認められることが明らかとなった.
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