研究概要 |
1.安静時ヒト咬筋組織内血流動態に対するCold Pressor(CPT)の影響 Victor(1987)らにより実験的に骨格筋内の交感神経活動を増大させることが可能と報告されているCPTを健常ヒト被験者に加え,安静時におけるヒトの咬筋筋組織内血流動態に対する影響を近赤外線スペクトル法を用いて評価した.その結果,咬筋内の血流量ならびに酸素飽和度はCPTの設定温度が低いほど増大することが明らかとなった.さらに,最も設定温度の低い4℃のCPTでは,咬筋内血液量が,付加終了後にベースラインを越えて有意に減少を示した。本結果は,交感神経活動増大時には,ヒト咬筋内の血流動態が増大することを示していると考えられた. 2.αおよびβ遮断剤投与下安静時ヒト咬筋組織内血流動態に対するCPTの影響 本研究では,CPTにより惹起される筋内血流動態変化に対する交感神経系αおよびβ作用の役割を明確にするため,非選択的α遮断剤(メシル酸フェントラミン製剤)およびβ遮断剤(塩酸プロプラノロール製剤)を正常男性9名に体重比0.15mg/kgで静脈内投与を行い,4℃のCPTを右側下肢に付加し,咬筋内血流動態変化を評価した.その結果,CPT付加前安静時咬筋内血液量および酸素飽和度はフェントラミン投与により有意に増大し,プロプラノロール投与により減少した.また,CPT付加中の咬筋内血液量の増大には交感神経系β作用に加えてその他の調節因子が関与していることが明らかとなった. 3.慢性筋痛者における安静時ヒト咬筋組織内血流動態に対するCPTの影響 CPTにより惹起される筋内血流動態変化を慢性筋痛者と正常者それぞれ10名の男性について測定し比較を行った.筋内血流動態は右側僧帽筋から記録を行い,CPTの設定温度は4℃とし右側下肢に付加した.その結果,慢性筋痛者においてはCPT付加時の筋内血液量増大の有意な抑制が観察され,慢性筋痛の病態に筋内血流動態異常の関与が示唆された.
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